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サイコパス・テストへの奇妙なこたえ/ジョン・ロンスン




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サイコパス・テストへの奇妙なこたえ

講演者:Jon Ronson(ジョン・ロンスン)

狂気と正気を確実に分ける一線はあるのでしょうか?『サイコパスを探せ! 「狂気」をめぐる冒険』の著者ジョン・ロンスンが,身の毛もよだつような話を通して,正気と狂気の間にあるグレー・ゾーンを明らかにしていきます。

ジョン・ロンスン: サイコパス・テストへの奇妙なこたえ | TED Talk

DSMマニュアル

DSMマニュアルは精神障害を診断するマニュアルであらゆる精神障害が載っている。1950年代には薄っぺらな冊子だったが、その後どんどん厚くなり、今では886ページもある。現在374種類の精神障害を掲載している。自分に精神障害があるか考えながらパラパラとめくっていくと、12種類あることがわかった。全般性不安障害・悪夢障害・親子関係の問題・仮病等。DSMを読みながら興味がわき、精神医学に批判的な人に話を聞こうと考えた。それで結局はブライアンという「サイエントロジー」信者とランチすることにした。

トニーとの出会い

ブライアンは、CCHRというサイエントロジストの精鋭チームを率いて精神医学を片っ端から叩き潰そうとしている。私は精神医学はいかがわしい疑似科学だと証明できると尋ねると、彼はブロードモア病院にいるトニーに会えばいいと答えた。ブロードモア刑事犯精神病院と呼ばれた所で連続殺人犯や自分を抑えられない人が送られる。トニーが何をしたのかブライアンにたずねると、誰かを殴った後狂ったふりをして刑務所送りになるのを逃れようとし、上手くやりすぎてブロードモアに収監されたという。トニーに会いにブロードモアへ行くことにした。

 

ブロードモアに行きトニーに会った。太ってはおらず健康そうでピンストライプのスーツ姿だった。ビジネスマンのように男は手を差し伸べた。自分が正気だと納得させるような服装をしているのだと感じた。まず本当に狂気を装ったせいで入所したのか聞いた。彼が言うには、暴行事件を起こして拘置所にいた時の同じ房の人のアドバイスで刑務所ではなく楽な病院に行くために狂った振りをしたのだが、それが上手すぎたせいでブロードモアに送られたという。彼はブロードモアに着くとすぐに精神科医に面会を申し出て、自分が精神病じゃないと言った。元々の刑期なら5年で出られたはずなのに、彼はブロードモアに来てもう12年になる。

 

トニーによれば自分が正気だと思わせるのは狂っていると思わせるより難しい。彼は正常だと思わせるにはサッカーやテレビみたいな普通の話題を普通に話せばいいと思い、「ニュー・サイエンティスト」の米陸軍が爆発物探知用にハチを訓練するという記事を読んだので、看護士に「米軍が爆弾を探すハチを訓練してるって知ってたかい?」と話しかけた。ある時自分のカルテを見たらハチが爆薬を嗅ぎわけると信じ込んでいると書いてあったという。病院側は彼の精神状態を知るために言葉以外の手がかりを探しているが、正常な座り方や正常な足の組み方なんてわからなかった。

 

彼の部屋の隣にはストックウェルの絞殺魔がいて、反対側には“チューリップ畑”の強姦魔がいる。だから怖くなって部屋にこもりがちになった。そうすると、それがおかしい証拠だと言われる。打ち解けず、気取ってるいると。つまりブロードモアでは、連続殺人犯を避ける態度が狂気のしるしなのだ。私には彼が正常に見えたが、本当にそうなのだろうか。

主治医の診断

そこで彼の主治医のアンソニー・メイデンに連絡し事情を聞いた。アンソニーによると、トニーの妄想はありきたりでブロードモアに来たら消えてしまったので、刑を逃れるため狂気を装ったことはわかっていたが、それでも彼を診察してサイコパスと診断したという。狂気を装うこと自体が、サイコパス特有の人を操る悪賢い行為だ。診断表にも「狡猾で人を操る」とある。頭がおかしいと装うこと自体頭がおかしい証拠であり、他の専門家によるとピンストライプのスーツは典型的な精神病質のしるしだ。診断表の最初の2項目は「口が達者で一見魅力的」、そして「過剰な自尊感情」。トニーは他の患者に近付かないと言ったが、典型的なサイコパスには誇張と共感の欠如が見られる。トニーの正常そうに見える部分こそが狂気の証拠だった。彼はサイコパスだった。

サイコパス診断者になる

医師からサイコパスについてもっと知りたければ、診断表を作ったロバート・ヘアが主催するサイコパス診断講座に行けばいいと言われたので、サイコパス診断講座に通って公認のサイコパス診断者になった。普通の人100人のうち1人はサイコパスだ。この割合はCEOや会社役員では4%になる。徹底した資本主義では精神病質的な行為が称えられる。たとえば人に共感しないことや弁が立つこと、狡猾に人を操ることなど。ヘアは、最も非情な状態の資本主義は、精神病質が具現化したものだという。

アル・ダンラップのインタビュー

アル・ダンラップにインタビューすることになった。通称「チェーンソー・アル」は90年代に会社資産の収奪で利益をあげた人で、弱体化した企業に参入して社員の30%を解雇し、街をゴースト・タウンに変えてきた。

 

私は彼に、彼がサイコパスであると言い、いま精神病質の診断表を持っているので一緒に見てみようと提案した。彼は気持とは裏腹に興味深げに了承した。「過剰な自尊感情」彼も頷くしかなかった。彼は「自分を信頼すべきだ」と言った。「人を操りたがる」、彼は「それはリーダーシップだ」と言った。「感情の薄さ、つまり多様な感情を持てないこと」、彼は「くだらん感情で悩みたい奴がどこにいる」と言った。彼は診断表を読み換えていった。

自分の中のサイコパス

アル・ダンラップと過ごして気づいた。彼が普通のことを話したとしても、私は必死になってサイコパスのレッテルを彼に貼り、彼の狂っている部分だけを見て診断しようとしていたということに。サイコパスの診断をはじめて、自分が少しサイコパスに近付いていた。

 

ジャーナリストとして自分は、こういうことを20年間してきた。我々ジャーナリストは、メモ帳を携えて世界を駆けまわり、宝石を探す。その宝石とは、インタビュー相手の人格の極端な部分だ。ありきたりの物は捨ててしまう。これがある種の精神障害を過剰に診断することにつながる。小児双極性障害では、たった4歳の子どもが双極性障害と診断される。子どもは癇癪を起こすので双極性障害の診断表でスコアが高くなるためだ。

グレー・エリア

トニーが電話してきた。私は、みんな彼がサイコパスだと言ってると伝えた。彼は自分がサイコパスであることを否定し、診断表の項目に「後悔の欠如」があるが、別の項目には「狡猾さ」や「人を操る傾向」もあり、だから犯した罪を後悔していると言っても医者はサイコパスにありがちな後悔を装う巧妙な手口だと診断するという。

 

ブロードモアに入って14年、とうとう彼は釈放された。決定理由は、診断表でスコアが高くてもそれが意味するのは再犯の可能性があるという程度なので、彼を無期限に収容すべきでないというものだった。彼は釈放され言った。「ジョン、いいか?みんな少しはサイコパスなんだ。あんたも俺も。まあ俺は明らかだが」

 

私はトニーが出所したのは正しいことだと考えている。狂った部分だけで人を評価すべきではないからだ。トニーは半分だけサイコパスだ。社会は曖昧さを嫌うが、彼はグレー・エリアで、グレー・エリアこそが人の複雑さや人間性が見えるところ、真実が見えるところなのだ。

感想

結構な人が少しはサイコパスの要素を持ってるものだと思ってる。自分は全くサイコパスだと思ってないけど、サイコパス診断をやるとサイコパスの可能性ありになるが、よく接している周りの人に尋ねてもそんなことないと思うという評価。どこにフォーカスするかで各人が普通の人に見えるし異常者にも見えるのはよく聞く話なので、極端でなければ個性で済むのかなと思う。